こんにちは!うたまるです。
フランス現代思想を代表するラカンの精神分析学は、その中毒性の高さからいまなお多くの人を魅了してやまない不朽の名作です。しかしラカンは難解なことでもしられ、入門書ですら難しものばかりというのが現状です。
またアマゾンなどのレビューを見てもラカンの入門書に関してはあまり参考になりません。
というのもレビューでは、ラカンを知らない人がはじめて読んで書いたような内容が大半だからです。
そこで、ここでは精神分析や分析心理学などの心理学の論文を100冊近く読んできた僕が、実際に熟読したラカンの解説書の中から個人的に思う最高のラカン入門書6選を紹介します。
さらに中級者向けに+3選も紹介!
またラカンの入門書は難易度やフォローしている範囲もバラバラなので、どの本から読むかも重要です。なのでかく入門書の難しさや特徴、読む本の順番も紹介してゆきます。
さらにラカンの魅力や特徴にも触れていくので、この記事でラカンに興味がわいたかたは是非、ラカンに挑戦してみてください。
この記事を読めば、本格的にラカンを理解するための経路が分かるはずです。
この記事の信頼性
専門書の紹介ブログでは、その本を読まずにでたらめな紹介をする人が多いので、今回紹介する本を撮影した画像を張っておきます。おまけでこの記事では紹介していませんがジジェクと新宮一茂の『夢』なども画像に入れときました。
(※木村敏と河合隼雄の本は電子書籍しかもっていないので画像に含まれません)
ラカンを学ぶ上での基礎
ここではラカン入門書を読むにあたってある程度は知っていた方がよい基礎知識を紹介します。
初期ラカンと後期ラカン(ラカン対ラカン)
じつは一口にラカンと言っても大きく分けて三つに分類されています。以下にその分類を示します。
〈ラカンの精神分析の三つの分類〉
①初期・50年代ラカン
②中期・60年代ラカン
②後期・70年代ラカン
①初期ラカンでは象徴界(言語活動)が中心となり、シニフィアン(言語記号の音声面)を中心にフロイトのエディプス理論を構造主義的に再解釈してゆきます。
有名なシェーマI、シェーマR、シェーマLなどは50年代ラカンの仕事であり、この時期のラカンでは神経症の症状はシニフィアンの別のシニフィアンへの置き換え(隠喩)、とくにそれを可能とする致死の名における父性隠喩が中心となっています。
そのため、症状を言葉によって解釈することが重要となります。
また、この頃のラカンでは享楽・欲動より欲望やシニフィアンにフォーカス。
初期ラカンにおいては、享楽は象徴界の参入によって不可能となるとされ、シニフィアンと享楽の二元論が示されます。
またシニフィアンを重視するため、精神病でいえばスキゾフレニーよりパラノイアが重視されるのも特徴です。
初期ラカンを一言で表せば、「大文字の他者の大文字の他者はある(神はいる)」ということにつきます。これは母の現前と不在の不安定な世界(原ー象徴界)を言語的・時間的に法則化・秩序化する単一の〈父の名〉が存在することを意味します。
これが②中期ラカンになると、ラカンの理論は享楽・大文字の物・対象aに力点が移ってゆきます。
60年代になると初期ラカンにおける「不可能な享楽」から「正常な享楽」という考えへと移行し、疎外と分離という新しいモデルが提唱されます。
疎外とは、主体のシニフィアンへの参入を示し、分離では対象aの抽出におけるセクシャリティの規範化と享楽が論じられます。このことで言語へ参入以後(疎外以後)の主体と享楽との関係が問われ、初期の言語中心主義が相対化するのが最大の特徴です。
こうして現実界への注目が高まり、この時期では精神病はパラノイアよりスキゾフレニーのが重視されることになります。
中期ラカンを一言で表せば、「大文字の他者の大文字の他者はいない(神は死んだ)」と言えます。このことは母の不在と現前の反復を秩序化する単一の〈父の名〉は存在せず、たんに信仰されているに過ぎないことを示します。
さらに③後期ラカンとなると「四つのディスクール」やサントーム、男女の式の考えが提唱され、ますます現実界、享楽、欲動が重視され、初期に力点を置かれたシニフィアンや欲望はあまり重要ではなくなります。
また後期では、初期・中期のシニフィアンと享楽の二元論から享楽を中心とした一元論が提唱され、ポスト鑑別診断論が提示されます。これにより、人はみな妄想する、と呼ばれるようになり、神経症と精神病の区別を超えた一般理論が提出されます。
そのため四つのディスクールにおける「主人のディスクール」では中期の疎外(シニフィアン)と分離(享楽)が一つの式によって統一されることになります。
またサントームは症状の根を現実界の享楽として捉える概念であり、疎外されない固有の身体的な享楽の核のこと。
後期ラカンの精神分析では、このサントームを言語的解釈から切り離して、独立して取り出すことで人間主体を固有の存在へと開きます。初期ラカンの症状を解釈するあり方とは真逆といえるでしょう。
したがって初期ラカンと後期ラカンはまるで別物といえます。
(※ディスクール、男女の式の詳細は、松本卓也著『享楽社会論』)
一般にラカンのこのような初期と後期の対立から、ラカンの精神分析は「ラカン対ラカン」と言われたりもします。
このため、ラカンの入門書を読むときは初期が分かりやすい入門書と別に、後期に特化したものや、初期、中期、後期の違いを丁寧に解説した本を読む必要があります。
そんなに本格的に理解するつもりはないという人が多そうですが、ラカンの理論は中毒性がきわめて高く、もっと知りたい、と思わせる魅力があります。
ぼく自身、最初は一冊の入門書を読んだらラカンは卒業と思っていたのに、いつのまにかラカンの悪魔的面白さにとりつかれていました。最近ではラカンの本を読むのが一番の楽しみです。
後期ラカン理論の解説は以下の記事を参照ください
ラカンの精神分析の魅力
ラカンの魅力の一つはその説明力の高さにあります。ラカンの理論を理解すれば、欲望という一つの概念から今の世の中の多くを説明しつくすことも可能です。
たとえば女子高生のカエル化現象やHSPの誕生まで、いろんなことを体系的に説明できてしまうのです。
またなんと言ってもラカンを理解することの魅力は映画やアニメ、漫画などとの関連性の深さにあります。
じつは映画の脚本家やアニメ監督にはラカンを参照して脚本を書く人が多いのです。
たとえば『攻殻機動隊SACシリーズ』でおなじみの神山健治監督や『パプリカ』で有名な今敏監督などは、ラカンの独自概念を作品に入れ込んでいます。
また最近の漫画だと『チェンソーマン』などはきわめてラカン的作品だといえます。
このようにいうとそれはこじつけだろ、と思われる方もいるかも知れませんが『攻殻機動隊SAC』と『パプリカ』に関しては監督がラカンを知っていて脚本を書いたことは疑いようがありません。
というわけでラカンを知れば、アニメや漫画、映画を深く理解可能になり、より楽しむことができるようになります。なのでアニメ、漫画、映画好きにとってラカンを学ぶことはQOLをあげることにつながるのです。
ラカンを理解するための哲学入門とフロイト
ラカンを理解するためには、できればラカン理論が強く関係するハイデガーやヘーゲルについてもある程度理解しておいた方がいいです。またラカン自身はフロイト派であるため中山元などのフロイトの入門書を読んでおくと理解が深まります。
とくにハイデガーを知っていてラカンの入門書を読むのと知らないで読むのとでは、理解の質がかなりかわってきます。
なのでここでは、おすすめのハイデガーの入門書を一冊だけ紹介します。
『ハイデガー入門』講談社学術文庫、竹田青嗣
哲学解説といえば、竹田青嗣です。ぼくのような工学部卒の哲学素人にも、しっかり分かるように説明してくれているのが魅力です。
余力があれば木村敏の著作などを読んで精神病に関する現存在分析的な解釈などを理解しておくと、ラカンの理解がぐっと立体的なものになります。
ラカン入門のための心構え
これまでの説明で分かってもらえたかと思いますが、一冊の入門書でラカンをきっちり理解するというのは無理です。
なので一冊だけで分かろうとするのはやめた方がいいです。
ただそれでも一冊でという人もいそうなので、そういう人のためにとっておきの一冊も後で紹介します。
現在、人気のあるラカンの入門書には、新宮一茂著『ラカンの精神分析』(講談社現代新書)があります。この本は318ページとお手軽な長さで評価も高いものですが、入門者にはおすすめしません。
手頃なページ数、キャッチーなデザイン、アマゾンでのレビューの高さから、この本だけでラカンを済ませようという人がいそうですがそれは無理です。
※ぼくは最初、この一冊だけでラカンを済まそうとしていました。
この本は入門書のなかでもかなり難解です。
新宮一茂は分析哲学の観点とメラニークラインとの関係から、独自色のあるラカン解説をするというのが特徴の著者で、この本はとくに難解です。
新宮一茂のラカン入門を読むならもっと別にオススメの本があるので、後で紹介します。
最高のラカン入門書6選!
おすすめの読む順番にそって6選の入門書を紹介してゆきます。
①『ラカン入門』
向井雅明『ラカン入門』(ちくま学芸文庫)
簡単さ:★★★☆☆
本格度:★★★★☆
網羅性:★★★★★
(ページ数412)
最初に読むならこの本がおすすめ、この入門書は初期ラカンから後期ラカンまでしっかり解説してくれています。やや難しいですが入門書としては網羅性が高いのが特徴で、この本を最初に読むことで、ラカンが提出する基本的な概念、専門用語の全般をおさえることができます。
この本で最初に全体的にラカンを理解することで、他のどの入門書もスムーズに読むことが可能になります。
また欠点としては後期ラカンの説明がかなりわかりにくいということです。サントームや四つのディスクール、女の式、男の式などの説明が難解で後期ラカンを理解するのにはこの一冊では不足があります。
②『ラカン派精神分析入門 理論と技法』(一冊だけで済ますならこの本)
ブルース・フィンク『ラカン派精神分析入門 理論と技法』誠信書房
簡単さ:★★★★★★★
本格度:★★★★☆
網羅性:★★★★☆
ページ数430
この本は圧倒的に一番のオススメです。この本よりわかりやすく本格的な入門書はおそらく存在しないと思います。僕は世の中にはラカンの入門書は三種類しかないと思ってます。それは、ブルース・フィンクの本か、松本卓也の本か、それ以外かです。
この入門書は圧倒的なクオリティを実現しており、松本卓也以外の日本人のラカン入門より遙かにわかりやすいです。あの単純な思考を好むアメリカでも通用するわかりやすさと、圧倒的な著者の理解力が実現する子供だましのない本格的な解説は圧巻としかいえません。
本書の特徴は精神分析の実践からラカンの理論を明確かつ具体的に解説している点です。理路明瞭でごまかしのないクリアな説明も特徴です。さらに後期ラカンが欲望から欲動へと軸足をうつしたことの意味を明瞭に説明しています。
この本を読むと日本人のラカニアンは後期ラカンをまともに理解できていないのでは?と思わされます。フロイトにおける表象と情動の分離を欲望と欲動の区別に対応させた説明などは秀逸であり、ハイデガーをしっている人からしたら感動ものです。
これらの区分はハイデガーの存在論的差異に相当し、ここが分かると一気に後期ラカンの意味をつかむことが可能です。
本書の基本構成は精神病、神経症、倒錯というラカン派の三大カテゴリーを軸に、疎外や分離、幻想の横断や想像界、象徴界、現実界などこの他さまざまなラカンのタームを極めて具体的に解説するというものです。
ぼくは複数冊入門書を読んでも解消されなかった想像界や象徴界、欲望などへのもやもやしたわからなさが、この本一冊で晴れました。
430ページと聞くと長そうに感じるかもしれませんが原注や推薦文献にかなりのページ数がさかれており、実質的には300ページちょいの長さになります。
もし一冊しかラカンの入門書は読まないという人はこの本だけ読むのが一番です。あのラカン専門の哲学者のジジェクも本書を高く評価しています。
※注意点としてブルースフィンクは、神経症を分離以後とし、精神病を疎外以前、倒錯を疎外以後分離以前として解説していますが、松本卓也によると一般のラカン派の解釈に従えば、精神病はスキゾフレニーを除くと全て疎外以後、分離以前となるようです。
③『人はみな妄想する』(最強の入門書)
松本卓也『人はみな妄想する ジャック・ラカンと鑑別診断の思想』(青土社)
簡単さ:★★★★★
本格度:★★★★★★
網羅性:★★★★★
ページ数446
初期、中期、後期ラカンの理論を概観し、それらの違いを理解、さらに後期ラカンを本格的に理解するうえで本書は欠かせません。
ブルースフィンクの本を超えたといっても過言ではない究極のラカン入門書。ただし、最初に読む本としてはあきらかに難しいので、フィンクの『ラカン派精神分析入門』を読んでから読むがオススメ。
これ以上のラカンの解説書は考えられないという次元の本。唯一欠点をあげるならば、最初に読む本としてはどうしても難しすぎることと、倒錯に関する議論が完全にオミットされているくらいです。
松本卓也の本は男の式・女の式および四つのディスクールに関する説明が他のどのラカン入門書よりも理路明瞭で、圧倒的に分かりやすいのも特徴です。
本書は50年代ラカン、60年代ラカン、70年代ラカンの本質と文脈をその鑑別診断論の在り方の変遷を追うことで完璧なまでに詳らかにしています。
④『後期ラカン入門 ラカン的主体について』
ブルース・フィンク『後期ラカン入門 ラカン的主体について』(人文書院)
簡単さ:★★★★☆
本格度:★★★★★
網羅性:★★★☆☆
ページ数313
(※簡単さは後期ラカンとしての評価)
リライト前は大絶賛しましたが、松本卓也の本を読んで、こちらの本の評価をやや下げました。
この本のポイントは後期だけでなくちゃんと全般的解説がなされている点です。後期のラカンを理解するために必要なそれ以外の基礎もしっかり解説してあります。とはいえある程度ラカンの知識があることが前提になるので最初に読む本には向きません。
しいて本書の欠点を言えば、サントームなど一部の後期ラカンの概念への言及がないことです。
⑤『無意識の病理学 クラインとラカン』
新宮一茂『無意識の病理学 クラインとラカン』(金剛出版)
簡単さ:★★★☆☆
本格度:★★★★☆
網羅性:★★☆☆☆
ページ数
新宮一茂といえば、『ラカンの精神分析』で有名ですが、『無意識の精神病理学』のがずっとわかりやすいです。フィンクできっちりと理論の基礎を固めたら、四冊目のこの本でラカン理解の脇を固めたいところです。
この本の特徴は、ラッセルのパラドクスやヴィトゲンシュタインの「命題は命題自己自身に言及できない」などの論理学や分析哲学の考えを通して、精神病の構造をひもとくことでラカンの理論を明らかにしているところです。
ラカンの理解にはラッセルの議論や分析哲学、構造主義言語学の議論は欠かすことができません。そんなラカン理解に必須の基礎的な議論を、誰にでも分かるように丁寧に解説してくれています。
またメラニークラインの部分対象と全体対象、パラノイアスキゾイドポジションとデプレッシブポジションの理論を解説し、ラカンの理論がこれらクラインの理論といかに対応しているかを明らかにしています。
なのでクライン派精神分析好きの人も読む価値のある本です。
※新宮一成のラカン理論は過度にクラインの影響を受けているため、鬱病やデプレッシブポジションを分離以後の水準として解釈している節があります。しかし、ラカン自身は松本卓也によると、デプレッシブポジションを象徴的母(全体対象)としパラノイアスキゾイドポジション(部分対象)を現実界に対応させ、両者の存在論的な位相を区別していたようです。そのため新宮一成が本書で展開する理論は一般のラカン論とはかなり異なるところがあります。
⑥『発達障害の時代とラカン派精神分析』
上尾真道、牧瀬英幹『発達障害の時代とラカン派精神分析 〈開かれ〉としての自閉をめぐって』
(晃洋書房)
簡単さ:★★☆☆☆
本格度:★★★★☆
網羅性:★☆☆☆☆
ページ数260
六冊目を読むならこれ。
これまで見てきた四冊はラカン派の基本カテゴリーである精神病、神経症、倒錯が中心になっています。しかし現代日本で急増し、今日の社会を語るうえで欠かせないものは発達障害(非定型発達)です。
したがってこれまでに見てきた四冊ではいささか時代遅れの感が否めません。
やはりラカン理論の実践の場における最新の展開を知ってこそ、この時代にラカンの理論を適用できるというものです。この本は2017年に出版されたもので現在の日本人に対応した最新のラカン派の理論が展開されています。
この本の注意点は、前半はかなり話が堅くて退屈なところです。最初のほうはざっと目を通すくらいでもいいかもしれません。
そして、この本の本気は最終章です。最終章が圧倒的に面白いです。僕は他の章はこの最終章のための布石とさえ感じました。
最終の第八章では、ドゥルーズとガタリの時間と空間に関する現象学が援用され、今を反復する刹那主義が現代人の時間感覚の根底にあることを暴き出しています。
これにより、ラカンの去勢や換喩の理論を時間と空間という観点から理解することも可能となります。
また精神病と発達障害のなにが違うのかということもよく分かるように解説されています。
ただし、間違ってもこの本を最初に読んではいけません。やはり六冊目推奨の本ですので、いきなり読んでも意味不明になるだけです。
最短でラカン入門する方法
ここまで複数の書籍を紹介しましたが、そんなに読んでられんという人も多いと思うので最短でラカンを攻略する裏技を紹介します。
まず②『ラカン派精神分析入門 理論と技法』を読み、次に③松本卓也『人はみな妄想する ジャック・ラカンと鑑別診断の思想』を読むのが最短です。
この順番で以上の二冊を読むのが最短のラカン攻略です。一冊を一ヶ月以上かけてじっくりと読むのがこつ。速読とかしても頭に入らないし、理解も不可能なので速読はやめましょう。
ラカンの限界を知るために、外からラカンを見るための本4選
ここではもっとラカンを深く理解したいという人におすすめの本を紹介します。
木村敏『分裂病と他者』(ちくま学芸文庫)
簡単さ:★★☆☆☆
この本は上で最初に紹介した『ハイデガー入門』と西田哲学の入門書を読んでから読むことをオススメします。いきなり読んでも理解困難な本です。
京都学派の鬼才、木村敏は現象学派の精神病理学者であり、ラカン派の構造主義的側面とは対立関係にあります。
この本では木村がラカンの問題点を鋭く指摘しており、そのためこの本を読めばラカンの理論を外部の視点から客観的に把握することが可能になります。
この本を読むときは初期ラカンの欲望や錯誤行為、言表行為が木村敏でいう存在論的差異やノエシスに対応しているということを念頭に置くと議論がわかりやすくなります。
後期ラカンでは欲動や享楽が木村敏のノエシスに対応しています。後期ラカンは構造主義を逸脱し木村敏やユングに非常に近い考えになります。
木村敏のロジックを知ることでラカン派の発達障害と精神病の区別の甘さを明確に見抜くことも可能です。またポストモダンや構造主義、京都学派などの思想に興味がある人にもおすすめです。
木村敏について詳しくは以下を参照ください。
河合俊雄『心理臨床の基礎2 心理臨床の理論』(岩波書店)
簡単さ:★★★★☆
日本のユング派を代表する一人、河合俊雄の名著。ラカンにおける鏡像段階での三者関係ついてをプレモダン的なウロボロス的主体におけるイメージと比較していたりする本です。
ラカンについては直接的言及はおまけ程度ですが、ユング派の視点を理解したうえでラカンの理論を参照すると一段とラカン理解が深まります。
河合隼雄『母性社会日本の病理』(講談社+α文庫)
簡単さ:★★★★★
いわずと知れた日本の心理療法界のレジェンド、河合隼雄の代表作の一つ。
一般大衆向けに書かれているため、誰でもいきなり読むことができ、それでいて奥が深く、非常に考えさせられる本です。ただしこの本ではまったくラカンについての言及はありません。
それでもすすめるのは、この本の主題である「永遠の少年」元型はラカン派の想像的関係、鏡像段階にそのまま当てはめて考えることもできるからです。つまりラカンの視点から読んでも非常に示唆に富む作品になっています。
初期ラカンは〈父の名〉が排除されると精神病になると言います。しかし、日本に単一の〈父の名〉などあるのでしょうか?
この疑問はラカンの理論の根幹に関わるものです。本書は、このようなラカンの理論への圧倒的な疑問を抱かせてくれるところがあります。
ラカンの想定する父性機能は近代西洋に生じたふしがあり、近代以前やアジアの国では必ずしも当てはまらないのかもしれません。
ラカンの限界が分かる記事
ユングの理論から後期ラカンがどのように解釈可能かを示した記事↓
京都学派的パースペクティブによるラカン理論の克服↓
まとめ
こんかいは以上です。
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